螺旋の終わり

 ・・・ユウナレスカは、そこに、ふわりと座った。
そして、アーロンの頭を、そっと自分の膝に乗せたのである。
「なっ・・・!何のつもり・・だっ・・・!」
 そう言うことさえ、全身の意志力を奮い起こされなければいけなかった。
視界が、何度も暗転しかかる。このままでは、とどめを待つことなく、
遠からず命は燃え尽きる。
「私に、ここまで、まっすぐな感情を向けてきた男の人はいなかった。
だから、少しだけ、つきあってもらうわ。
 そう、あなたの命が消えるまで。」
 意外なほど穏やかな声で語りかけると、乱れたアーロンの髪を、そっと
片手でかきあげた。

「ふ・・ふざけるな!」
「少しだけ、私も疲れました・・・」
 必死にかき立てた怒りが、ユウナレスカの言葉に、かきみだされた。
「ここにやってくるのは、命を捨てて、一時の平和を願うものたち・・・
私の愛したスピラを愛し、守ってくれようとしている戦士達・・・・
その人達に、私は、命を捨てる方法を教えることしかできない。」
 そして、長い長いため息をついた。
 唖然とするアーロンの胸に・・・そう、衝撃と魔力の暴走で、衣装もぼろぼろに
なった、裸の胸に・・・柔らかく右手を置いた。
 その手が一瞬、柔らかく青く輝くと、アーロンの全身の激痛が、嘘のように消失した。
切り裂かれた片目は、その視界を取り戻せはしなかったが・・・
「痛みを、少しの間忘れさせただけ。そう、私の方法と同じく、一時しのぎでしかない。」
「・・・・・」
 事態の推移を理解できないアーロンに、ユウナレスカは静かに言葉を続けた。
「長い長い間、私は、その役目を果たしてきました。
 体が無くなっても、夫と会えなくても・・・・
 ずっと、一人で。」
 悲しそうに、微笑んで見せた。
「そして、長い長い時の狭間・・・時たま訪ねてくれる人たちには・・・
命を捨てて、ひとときのナギ節をもたらす方法を伝えなければならない・・・
そして、時には・・・その、勇敢な戦士と戦わなければいけない。そして、
殺してしまわなければいけない・・・」
「・・・・」
「誰を恨みようもない、誰でもない、私が決めたことです。
でも、私も、少し、疲れました。」
「・・・・・・・」
 そう、ユウナレスカも、好きでこんな「役目」をしているわけではない。
 それ以外に、「シン」を止める方法が思いつかなかったから。
 それ以外に、愛するスピラを、ひとときでも守る方法が無かったから。

 ならば・・・それ以外の方法を思いつかず、ブラスカも、ジェクトも止められなかった自分は、
同罪ではないか。
 ユウカレスカ一人に、スピラの死の螺旋の矛盾を押しつけ・・・自分の感情の爆発先を
求めていたのではなかったか。
「だから・・・貴方には悪いけど、少しだけ、話し相手に。恨み言でも、かまわないから。」
 これまでの超然とした話し方ではなく、外見相応の女性の口調で、ユウナレスカは
微笑んだ。
「・・・ユウナレスカ・・・様・・・」
「私を、まだ、そう呼んでくれるのかしら?」
 アーロンは、ユウナレスカの手を、できるだけ優しく握った。
「それ以外の・・・方法を・・・思いつけず・・・仲間を止められなかった自分も、
同罪です・・・・」
 
 アーロンのつぶやきに、ユウナレスカは、驚愕したように瞬きをすると、穏やかに
微笑んで見せた。
「変わった人・・・仲間を奪って、自分の命も奪いかけた相手に、そんなことを言うなんて・・・」
「必ず・・・必ず、貴方の永遠の孤独を・・・スピラの死の螺旋を・・・断ち切るもの達が
あらわれます・・・どうか、そう、貴方の言う「希望」を捨てないで・・・下さい・・・」
 今度こそ、ユウナレスカは絶句した。
 仲間を奪い、自分を殺そうとした相手に向かって、この青年は・・・
 希望を与え、元気づけようとしている!
 気がついたときには、そっとその顔を、自分の胸に抱きしめていた。
「変で・・・優しい人。でも、残酷な人。
 あの人に、ゼイオンによく似てるわ。
 私の好意を獲得して、そして、すぐにいなくなってしまう・・・ところまで。」
「ユ、ユウナレスカ様?」
 こちらは別の意味であわてだしたアーロン。
「覚悟してもらうわよ、青年・・・こんな・・・こんな幸せで・・・こんなにつらくて・・・
こんなに切ない気持ちになったのは・・・どれぐらいぶりでしょう・・・」
 熱っぽくうるんだ視線で、アーロンの一つしかない瞳をみつめた。
「ゆ、ユウナレスカ様、あの・・・」
 ユウナレスカは、その口を、そっと指でふさいだ。
「もはや、語りません、でしょ?」
 反論しようとしたアーロンの唇を、今度は、柔らかくて、しっとりとしたもの・・・
ユウナレスカの唇が、ふさいでいた。
 アーロンの一つしかない瞳が、驚愕の限界まで見開かれる。
 もしかして・・・もしかして自分は・・・伝説の英雄に・・・
しかも、そのまま・・・もうこの世の住人では無いとは信じられないぐらい、
熱くて、柔らかなもの・・・ユウナレスカの舌が、自分の口の中に進入してきた。
「んっ・・・・む・・・くっ・・・・」
「・・ふぅ・・・っ・・・」
 しばらくの後、二つの顔が、名残惜しそうに離れた。ぽっと上気したユウナレスカの
顔を、ぼぉっとした頭のまま、アーロンは、信じられない思いで見た。
「そんな・・・そんな・・・・」
「あら、私は、一応、人妻よ?こういったことも、当然知ってます。
 ずっとずっと長い間、忘れていたけど・・・」
 かわいらしく首をかしげると、
「誰かのせいで、少しだけ思い出してしまったわ・・・・
 責任は、とってもらわないと。」
(馬鹿な!こんな、こんなことって・・・・)
 と、そこで、体勢を入れ替えて、ユウナレスカが、優しく覆い被さってきた。
(うっ!!)
 秋口に咲く花のような甘い香りと、やはり死人とは信じられないようなみずみずしい肌の感触。
それらを感じた瞬間、自分の体が反応してしまったことに気づいて、顔を真っ赤にして背ける
アーロン。
「あら、貴方も、乗り気ね?」
 そして、不審そうにちょっと首をかしげると、耳元でささやいた。
「貴方・・・もしかして、初めて・・・なの?」
 アーロンは、ますます顔を赤らめてぼそっとつぶやいた。
「俺は・・・僧兵でした。常に、スピラの民の規範として、規律ある生活を心がけていました。
 それからは、ガードとなりましたから・・・」
 上司に勧められた縁談を蹴飛ばしたのも、妻帯したくなかったという理由もあったからなのだが・・・
「嬉しい・・・じゃあ、私に任せて。前も言ったけど、一応、人妻ですから。」
「うう・・・・ゼイオン様、申し訳ありません・・・」
 そこで、ふっと笑って、ユウナレスカが言った。
「あの人には、私を置いて先に逝ってしまった罰です。
 それに、もし・・・私の退屈を慰めてくれたなら、貴方に、誓いを果たす、いい方法を教えてあげます。」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、だから・・・」
 ユウナレスカの手が、ぼろぼろになった自分の衣装をほどいていくのを感じながら、
アーロンはついに「観念」した。
 複雑な・・・一種幸福でもあったかもしれない・・・・感情に満たされたまま、
アーロンは、暴風のような時間に身を任せた。

 ユウナレスカの方法とは、ユウナレスカと同様の方法で、時間を過ごすこと。
死人となり、ユウナは信頼できるものに預け・・・死人にしか踏み込めない異世界、
シンの体内に行き、ジェクトの子供を見守ること。
 そして、ジェクトの生き様を教えること。
 そして・・・・いつか、この死の螺旋を断ち切ること。

 幸福そうに、つやつやした顔で、別れを告げるユウナレスカ。
 反対に、げっそりと頬の落ちた顔で(当然、怪我と疲労のせいだけではない)別れを返すアーロン。
「いつか・・・また。」
「そう、そのときは、この憂鬱な永遠を・・・終わりにするときです・・・」
 そして・・・・ユウナレスカの魔法が切れ・・・・必死にガガセト山を下ったアーロンは、
そこでキマリに出会い、ユウナの将来を託し・・・自分は、死人として、シンへ・・・祈り子達の
ザナルカンドへと向かった。
 友との約束を、果たすために。
 友を奪ったものとの、約束を、果たすために。

「お前の、物語だ!!!」
 ティーダの驚愕の顔から始まる、彼らの、そしてもう一つのアーロンの物語。

 時は流れ、いくつもの出会いと別れを経て。
 ・・・・何度目かの、ユウナレスカの待つ部屋。
(これで、やっと、また一つ、約束が果たせる・・・)
 アーロンは、愛刀を右肩に、その部屋へと足を踏み入れた。

                               (完)

 長文乱筆、失礼いたしました。
 このスレッドを見て、一念発起し、かなーりユウナレスカに好意的な視点から
書いてみました。また、一番肝心な部分を抜かしてしまってごめんなさい。
 もしよかったら、職人さん達に自由に料理していただいて下さいな。
 では。
 


トップページに戻る
inserted by FC2 system