25
 木崎は、病人と思えないぐらい、朗らかに笑う。そして、ちょっと
おどけて、敬礼のような仕草をする。
「ご協力、心から感謝します、お嬢さん。・・・あ、あと、できたら、
俺が死んだあと、そこの電話で、119番通報してくれると助かるな。
何も言わないで、受話器をほっといてくれたら、救急車が来るから。」
「何でですか?」
「いやー、ぐちゃぐちゃになるまで放置されたくないし。大家さんにも悪いし。」
 自分の死後のことまでしっかりと考えてある木崎に、思わずくすりと
笑ってしまう貞子。同時に、自分が今まで手にかけてきた人たちのことが、
頭をかすめて、また涙が出てくる。
 それを敏感に察知したのか、木崎が、自分に乗りかかった姿勢のままの、
貞子の背中を、ぽんと叩く。
「さあ、貞子さん。」
「ええ。」
 こっくりとうなずく貞子に、木崎が、少し気弱そうに笑ってみせる。
「あの、できれば、眠り込んでるうちに他界するとか、痛くないやり方が
あったら、そっちにしてもらえる?俺、痛いの苦手だから・・・」
 そこで、貞子は、なぜか、顔を赤らめた。
「ええと、そんなに痛くはないと思うんですけど。」
 そして、表情を、きっと引き締めた。
「じゃあ、始めます。
 ・・・木崎さん、目を、閉じてください・・・・」

26
 木崎が、最期に、また、あの、透明な微笑みを貞子に向けて、
 静かに両目を閉じた。

 木崎の心は、自分でも、信じられないぐらい落ち着いていた。
(悪くない、人生だった・・・・)
(いろいろなことができたし、いろいろな人にも会えた。)
(他の人にできないことも、最期に、やり遂げられた。)
(こんなに可愛い娘に殺されるのと、看取られるのを、
 一緒にやってもらうってのも、贅沢なはなしだよね。)
 そして、胸の中で、もう一度、この世の全てと、貞子に、
別れを告げる。
 そして、次の瞬間、それは、ゆっくりと訪れた。

 予想もしていなかったことに、木崎の身体はびくっ、と跳ね上がった。
だが、手足は、凍り付いたように動かない。
(呪いの、力!?)
 だが、問題は、そこではない。
 自分の唇に触れた、柔らかい、みずみずしい感触。
思わず、眼を思い切り開けると、頬全体を真っ赤に染めて、目を閉じた
貞子の顔が、想像もできないぐらいの距離にあった。
 唇をそっと重ねて、少し、顔を離した瞬間だったのである。
「さ、貞子さん!?」

27
 木崎の悲鳴も聞こえなかったように、貞子は、ぽぉっと上気した表情で、
微笑んだ。つい数瞬前の感触を思い出すように、少し、唇をなめた。
数分前からは想像も付かなかった艶に、身震いする木崎。
「木崎さんは、(わがまま)で、私を、もてなしてくれました。
 私は、木崎さんのお望み通り、呪って、殺して、看取ります。
 そのかわり・・・・
 私も、(わがまま)で、木崎さんの呪いかたを、選ばせてもらいました。」
 思いも寄らない言葉に、さっきまでの覚悟が消し飛んで、あわてる木崎。
 命を取られる覚悟とは、全く別の状況だから、無理もない。
「呪いかた、って!?」
 貞子は、上気した顔で、少し恥ずかしそうに、微笑む。
「そう、これは、呪いの一部ですよ。だから、木崎さんのお望み通りです。
 もっとも、(こんな呪い方)をするのは、初めてですけど。」
「そんな・・・こんな呪い方なんて・・・」
「いったでしょう?呪い方は、わたしの(わがまま)です。いつもは、
 恐怖で狂死か、首を絞めるか、なんですけど・・・・」
 そこで、ちょっと意地悪そうに、唇を釣り上げて見せた。
「木崎さんと同じ、思いついただけ、ですよ?
 このわがままだけは、私も、押し通します。」

28
 木崎の、うろたえた視線の中で、貞子は、木崎に借りたシャツのボタンを、
一つ一つ、ゆっくりと外していった。白いシャツと、興奮で薄くピンク色に
染まった肌の対比が、目に焼き付く。
 最後のボタンを外して、シャツから袖を抜くと、丁寧に脇によけた。
 自分に釘付けになった木崎の視線に、また頬を上気させて、心地よさそうに
にっと笑いかける貞子。
 肌の色と、濡れた夜の闇のような漆黒の髪。すらりとした肢体に、意外に
豊かな形の良い胸と、その先端の、ピンク色の小さな突起がさらされている。
そして、布地ごしに、木崎のちょうど股間に押しつけられている箇所は、ほんの少しの
柔らかい毛に薄く包まれているだけで、ほぼ露出していて、うるんで熱を持ち始めていた。
 思わず、反射的に目をつぶってしまった木崎の胸元を、細い手が探る。
 抵抗しようにも、手足は全く動かせない。まず、Tシャツが胸元までまくり上げられ、
両手を上に持ち上げる格好で、抜き取られてしまった。
 そして、その裸の胸に、こちらも、裸の貞子の胸が、ゆっくりと押しつけられた。
「はぁっ・・・」
「くっ・・・・」
 貞子の、うっとりした吐息と、痛みをこらえるような、木崎のうめきが重なる。
自分の胸で押しつぶされる形になった、貞子の胸が、ふにふにと官能的に形を変える。
その先端の突起の感触が、みるみる硬く、とがっていく。

29
「木崎さん、嫌なんですか?」
 貞子が、少し不安そうに、大部分は不満そうに放った問いかけに、木崎は、少し考えて、
観念したように言った。
「・・・慣れて、ないんだ。」
「え?でも、さっきは、呑む、打つ、買うで散財したって・・・」
 木崎は、ますます観念したように言う。
「俺、人付き合いがあんまり良い方じゃないし、もてないから、彼女、できたこと無いんだ。
こんなことも、風俗店以外じゃ、一度もないんだ。いや、情けないけど、本当に。」
 貞子が、それをきいて、嬉しそうに、また上気した顔で笑う。
「・・・嬉しいです。じゃあ、ますます、この呪いは、やめられません。」
「あの、それは・・・」
 木崎の反論は、貞子の「口封じ」で強制終了させられた。
 今度の口づけは、ずっと長くて、貞子のほうから、舌をためらわずに絡ませてきた。
 荒くなった呼吸を押し殺しながら、木崎の舌と唇を思う様に蹂躙して、木崎の
スラックスのベルトを抜き取って、フックを外し、ジッパーを引き下ろす。
 そして、スラックスを両足から抜き取ると、木崎の黒い無地のトランクスを、
ためらいなく引き下ろした。
 ぎっ、とかたくなった木崎のペニスが現れると、貞子は、名残惜しそうに木崎の唇から
離れると、顔を一層上気させて、真剣な表情で、まじまじと木崎の分身を見つめた。


30
「すごい・・・木崎さんの・・・・」
「貞子さん、あの・・・」
 木崎の情けない呼びかけも聞こえない様子で、貞子は、細工物でもさわるように、
木崎のペニスに、そっと触れた。
「かたい・・・かたくて、ビクビクしてる・・・それに、熱い・・・・」
 そのうちに、両手でさわりはじめ、だんだん、大胆に触れる。
 根本から先端にかけて、手を滑らせるようになでさすったり、睾丸部分を柔らかく
もみしだいたり、指で輪を作ってこすったりと、木崎の表情で、快感が強くなる行為を
探して、飽きることがないように、木崎のペニスをまさぐり続けた。
 その行為に没頭するほど、貞子の表情は、荒い呼吸とともにとろけていって、片手では
自分のまだ少女のような性器を、熱い水音を立てて、かき混ぜていた。
「貞子さん、もう・・・・それくらいで・・・」
 すでに、我慢の限界に近い木崎が、荒い息の間から、声を絞り出す。
「んっ・・・そうですね、木崎さん・・・・これぐらいにします・・・」
 木崎が安堵のため息をつくより早く、貞子は、一度立ち上がって、姿勢を変える。
仰向けに横たわる、木崎の胴をまたぐ姿勢で、木崎に腰掛けるように。
「さ、貞子さんっ!」
「もう、我慢、できませんから・・・・」
 快感と、欲望に、とろけきった表情のまま、木崎の凝視を意識して、自分の
幼いとも言えそうな性器を、指でそっと開いてみせる貞子。

31
 そのまま、腰をゆっくりと下ろしていく。あふれた熱い蜜が、いきり立って
充血した木崎の亀頭にこぼれ、糸を引いて広がる。
「私も、そんなに、慣れてないから、きつかったら、ごめんなさい・・・」
 うわごとのようにつぶやくと、くちゃっと音を立てて、自分の性器に、木崎の
ペニスの先端を押しつける。
 そして、そのまま、かすかに円を描くように腰を揺らしながら、ずぶぶっ、と
きつい肉の間を、木崎の怒張したペニスで、押し広げていく。
「あ・・・あああっ、木崎さんが・・・入って、入ってきます!!」
 狭い場所を押し広げられる少しの痛みと、身体を押し流すような膨大な快感に、
がくがくと唇を震わせる貞子。
 意識しないままこぼれてくる、はしたないあえぎ声を恥ずかしがるように、
片手を口に当てて、声を抑えていたが、無意識に腰がくねり続けるうちに、
それも忘れ果てて、激しく身体を弾ませていた。
「はぅ・・・はぁっ、はぁあ・・・あぅ、あああ・・・・
 木崎さん、木崎・・・さぁん・・・」
 快感のあまり、見開いた眼は完全にうつろになって、半分開いた唇からは、
透明な唾液がこぼれている。目を閉じて、必死に歯を食いしばって、なにかに
耐えていた木崎が、こらえきれないように、激しくうめいた。

32
「あ・・ああ・・うぁあああっ!」
 ずぐっ、と自分の身体を下から跳ね上げる感触に、不意に、絶頂に襲われる
貞子。背筋が反り返って、木崎のペニスを強く締め上げていた性器が、一層強く
木崎のペニスを絞る。
「かぁ・・・はあああ・・・・」
 声も出せずに、吸い込むような呼吸音を立てる貞子の身体を、また、下から
跳ね上げる感触。先ほどより、もっと強かった。
 貞子は、銀色の星が散る頭の中で、必死に考えた。
(ああ・・・木崎さんが・・・木崎さんが、自分で・・・動いて・・・
 私を、突き上げて・・・くれてる・・・・)
 理解した途端、またもう一度、絶頂が襲いかかってくる。
「かはっ・・はぁああああっ!!」
 「行った」直後に、休ませられずに、立て続けに襲ってくる快感に、もう、
一切の思考を放棄する貞子。
「木崎・・・木崎ひゃんっ・・・もっと、もっとぉ・・・」
「貞子・・さんっ・・・ああ、ああっ!!」
 火にかけたシロップの鍋を激しくこね回すような音が、部屋の中をはね回る。
もう何度目か、快感に気を失いかけた貞子が、無意識にのばした手で、木崎の
両手を握りしめる。そして、木崎が、こちらも無意識に握りかえした瞬間、
貞子の濡れそぼった肉の中で、木崎のペニスが、ぐうっと震えた。

33
(ああ・・・来る、くるうううっ!!)
 二人とも、言葉にならない、無言の絶叫をあげる。
 ビュクン!ビュルルウッ!!
 一瞬後、木崎のペニスは、爆発するように、射精していた。
 固体が当たるような凄い勢いで、自分の一番奥の部分に、熱い粘液が
叩くように吹き出される感触に、完全に白目をむいて、全身を痙攣させる
貞子。貞子のヴァギナは、貪欲にそれを吸い取るように、びくっ、びくっ
と伸縮する。
 そして、二人は、幸福な表情で、意識を失った。

「・・・・・」
 貞子は、そっと、薄目をあけた。
 とても、満ち足りた気分で、意識を取り戻す。こんな、気持ちの良い目覚めは、
何年ぶりだろうか。
 大きくのびをしようとして、自分の両手で握っている、木崎の手に気づく。
そして、自分がのしかかったままの、その身体にも。まだ、自分の中にとらえ続けていた、
木崎のペニスにも、気づいた。
(わたし・・・あんなに・・・・はしたなく・・・・)
 自分の乱れぶりを思い出して、無言のままに、真っ赤になる貞子。
(いいんです。あれで、いいんです!)
 よくわからない理論で、自分を無理矢理納得させると、もう一度、木崎の、薄く
汗の浮いた胸に、嬉しそうに顔を埋める。

34
「・・・・あの・・・」
「・・・・今、取り込み中です・・・・」
「・・・・あの、それはわかるんだけど・・・・」
「・・・・邪魔しないでください・・・・」
 自分の、ささやかな幸福を邪魔されて、不機嫌に言い返してしまってから、
ふと気づいて、ばっと顔を上げる。
 木崎が、形容しがたい、ばつの悪い顔で、苦笑していた。
「・・・・起きて、いたんですか?」
「・・・・いや、あの。起きてたんだけど、手足が動かなくて・・・・」
「あ、あっ!そう、そうでした!!」
 貞子より先に、気が付いてはいたらしいが、貞子に文字通り全身を
捕らえられていた上、手足が動かなければ、「脱出」もできなかったわけである。
 あわてて、手足を縛っていた「金縛り」を解く貞子。
「ご、ごめんなさい、重かったですよね!?」
「謝る部分が違っていると思うんだけど・・・・」
 そこで、ふと思いついて、貞子を見つめ直す木崎。
「あの・・・・」
「はい?」
「生きてるんだけど・・・」
「え?」
 いまいち、理解していない様子の貞子。

35
「俺、生きてるみたいなんだけど・・・・」
「はあ。」
「呪いだったんだよね?痛くない呪い。」
「・・・・あ!」
 思い当たって、また、顔を真っ赤にする貞子。
 はにかんだように、微笑んでみせる。
「ああ、そうでした、そうでした。
 ええと、ええと・・・たぶん、遅効性なんだと思います、
 この呪い。」
「たぶん、って・・・そんな、いいかげんな・・・・」
「もしくは、失敗しちゃったのかもしれません。」
「かもしれません、って・・・・」
 そこで、貞子は、とても、とても嬉しそうに、にっこりと微笑んだ。
 周囲の空気まで、ぱっと明るくなるような、笑顔だった。
「大丈夫です!わたし、一生懸命、呪いますから!」
「・・・え?」
「遅効性だったら、何度も呪ったら、たぶん、早く効きます。
 失敗したんだったら、成功するまで、頑張りますから!」
 決意を細い眉に浮かべて、堂々と宣言する。
「が、がんばるって・・・んんっ!」

36
 貞子の「内側」に捕らえられたままのペニスが、ぎゅうっ、と
また、締め上げられて、木崎は、思わずうめいた。
「じゃあ、とりあえず、もう一回、試してみましょう。
 今度は、もっと頑張りますから!」
「ちょ、ちょっと・・待って・・・・」
「駄目です。この呪いは、「わがまま」で押し通すって、
 言いました。」
 貞子は、もう一度、ぱぁっと微笑む。

「あなたを、呪ます!」

                                   つづく
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第四部に続く

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